勝手にレビュー40:凋叶棕の32thアルバム『報』

エクラ ドゥ アルページュってありますよね……あれ…..初めて嗅いだとき……なんていうか……その…下品なんですが…フフ……

凋叶棕『報』 2021年3月21日


1. カネと楽園とエゴイスト 5 / 5 点

開幕はまさかの念仏。そしてまさかの「うるせー」で流れをぶっちぎり、ダンスビートに突入。
清々しいまでに享楽的。その姿はただのクソガキか、徹底的な現実主義者か、革命を先導する自由の女神か。
実はどれでもない。この曲で描写される女苑の目的は、世界の破壊である。欲にまみれた哀れな子羊共を扇動し、見えてる地雷をそこら中に仕込ませるのだ。

誰も逆らえぬ正義よ 楽園への花道をいざ照らせ


2. Bloodless Gleaming 4 / 5 点

エロ曲その1。ジャック・ザ・リッパーだだ漏れの咲夜が嗜虐心を爆発させる。
ブックレットイラスト初見時は雇い主のレミリアに反逆する歌かと思ったが、「世界に嫌われながらなお目を背けて」といった凋叶棕ご用達の性癖描写があるので、かわいそうな犠牲者は魔理沙のようだ。
殺る気まんまんのサイコパスに捕捉されたが最後、跡形もなく解体される。おれもこんな風に愛する人をいじめたいし愛する人からいじめられたい。もちろん、取り返しのつく範囲内で。

嫌いじゃないの 可愛いらしいの ゴミクズの様に扱いたいの!


3. Lovely/Easing/Wholesome/Distractive 3 / 5 点

インスト。ポップでかわいらしいデジタルサウンド。でも頭文字が「Lewd」……。
次曲の前フリ。


4. Fairy Disease 4 / 5 点

エロ曲その2。おしゃれで淫靡なロリコン曲。
心を惹きつけて止まない少女たちを独占してしまいたい。でも手を出せばせっかくの神聖な少女性を汚してしまう。そんな板挟みな心情をたらたら垂れ流している。
めらみぽっぷのイケボのおかげで気色悪さが中和されているようなそうでもないような。

病める私を 見やらないで呉れ


5. 夜は短し稼げよものども 3 / 5 点

インスト。あやしげな和風。
見るからに手を出してはいけない取引をもちかけるマミゾウの姿が目に浮かんでくる。


6. 孤独のイドラ 5 / 5 点

ストリングスが荘厳でかっこいい。もろに神林長平『膚の下』をモチーフにした曲。
親たる創造主が子たる被造物に期待するのはいつだって、親の制御を離れて親を超越し、寂しく退屈でクソみたいな世界を混沌に突き落とすこと。
子供という意志ある存在に限らず、なにかを創り出したくてたまらない連中の欲望の根源にあるのはそれだ。おれだってそうだ。自分が書いたプログラムでこの世が作者にも予測不能のしっちゃかめっちゃかになってほしい。世界に残る爪痕が深ければ深いほどよい。どんなソフトウェアにすべきかというアイデアは一切湧いてこないのが悲しいが。

われらはおまえたちを創った おまえたちはなにを創るのか

神は人を創り、人は造物神を創り、造物神は偶像を創り、偶像は…..。そこに顕現するのは、終わりのない創造の再帰構造。
おれが書くと陳腐な感想文にしかならないので、もっとまともな文章を見たければ『膚の下』を読め。

いつか お前たちが その何かのその手にかかって 果つまで


7. 甘きゲヘナの誘い 3 / 5 点

インスト。シンフォニック・ロック風。
人体などいろいろなゴミが捨てられ常に火が燃えていた、エルサレム南端の場所をゲヘナというらしい。
前曲の次がこれって、なかなか鬼畜っすね。


8. ラストオカルトファンタジー 3 / 5 点

課金性のソーシャルゲームを散々コケにする歌。
この曲が一から十まで説明してくれているが、ソシャゲはコンテンツの消費速度と空虚性、画一性、承認欲求その他もろもろデジタルの悪いところが全部濃縮されている、ある意味奇跡のような商材である。
そういうおれも一作品のみプレイしたことがある。『乖離性ミリオンアーサー』。その顛末は調べてもらったほうが早いだろう。課金も8000円してしまった。10ヶ月プレイしたので、まあコンシューマゲームと同程度の出費と持続性と考えることはできる。ただ、プレイ中は常に課金欲との闘いだった。人類にとってあれはあかんわな。一般的にはどれほど課金するものなのかは聞くのも恐ろしい。

ほらわかるでしょう<*祈れば当たる*>の


9. 新世界の曙 3 / 5 点

インスト。ドラクエっぽいクラシック音楽。
前曲で闇堕ちした菫子がコンシューマゲームにたどり着いたということか?


10. Greedy Girl 3 / 5 点

本作で一番平和な曲。たぶん。ていうか他が全部アレすぎるんだよ。
妖怪しばきの巫女という唯一無二な役割を、自主的に選べなかった神頼みの職業と切って捨てる霊夢。まあ本人の資質とやりたいことが一致しないのはよくある不幸ではあるが。
はたから見ればすでに強烈な才能を持ちながらもやたらといろんなことに手を出してその都度しくじっているのは、微笑ましくも眩しい。すげー年寄じみた感想だけど。

その答えも ほしがれ全部


11. しあわせのかたち 5 / 5 点

いくら貢がせても決して幸せになれない女とズブズブの共依存に堕ちていく曲。
あらゆることに自嘲的なのがあざとすぎる。こんなん聴かされたら貢ぎ体質と化し、養分にされること確実。いや、違うな。能力のせいで紫苑自身が幸福になることはないので養分にすらなれない。この女は焼畑農業のように同じ悲劇を繰り返すだけだ。それがわかってても掌で踊らされちゃう。
年齢を考えると当たり前だが経験人数がそこそこ多いことを示唆する歌詞があるので、嫉妬心・対抗心を煽られる。実に小賢しい。
その歌声に腰砕けにされいつのまにかヘビロテしてしまい、生命力を吸い取られる。まるで歌詞と呼応するように。

私といたって 楽しくないよね ね。


総評 : 4 / 5 点

あらゆる欲望には破滅に至る罠が仕掛けられている。
ただ、この作品を聴いているとむしろそっちが本流な気さえしてくる。