勝手にレビュー11 : B'zの7thアルバム『The 7th Blues』

今作はB’z史上初の、そして2017年現在唯一の2枚組オリジナルアルバムです。収録曲は20曲と、当然のことながら歴代最多という力の入れよう。しかし、B’zマニアからは「暗黒時代」と揶揄されることの多いアルバムです。

その理由としては、

  1. ジャズやブルースの要素をふんだんに取り入れたせいで、B’zの中で最も渋く、地味なアルバムという印象を受ける。
  2. 傑作シングルの「愛のままにわがままに僕は君だけを傷つけない」、「裸足の女神」をわざわざオミットしている。
  3. 売上が落ちた。

この3つが挙げられるかと思います。まあわからんでもないですが、1についてはDISC2はともかく、DISC1は結構ポップですし、2に関してもアルバムのコンセプトを考慮すれば上記の2曲はそぐわない。3については、2000年代前半のほうがアルバムの完成度的にもよっぽど「暗黒時代」だと思いますが、どうなんすかね。
(Wikiを見たら、どうやらメンバー自身が「暗黒時代」と発言しているらしい。マジで?恥ずかしすぎて死にそうなんですけど。)

B’z『The 7th Blues』1994年3月2日


DISC1

1. LOVE IS DEAD 5 / 5 点

外人が通話でB’zの紹介をするという謎のシチュエーションから始まり、ギターと管楽器の応酬が待ち受けるブラス(金管楽器)ロック。
歌詞は別れた恋人への想いを断ち切れない、というのがテーマ。「なりふりかまわず古き良き日にとりつかれてるヤツの うわ言聞けないと匙をなげてため息まじりに身内も離れてゆくよ」が好き。
ジャズっぽい間奏がめちゃんこかっこいい。


2. おでかけしましょ 5 / 5 点

ポップでテンション高めの、これまたブラスロック。
「とりあえず情報の真偽は自分の身体で確かめてみましょう」という稲葉の説教が、マイルドに伝わってくる。「いたれりつくせりのよくできた部屋で アタマに脂肪がついてくる」。この当時からすでに、情報リテラシー的なものが問題視されていたのか。
中学三年のとき、国語の教師がこの曲に出てくる「憧れの人に会いにあおい海を渡ろう」という歌詞を例に出して、音韻を説明していたことが思い出される。
当時の僕は「この文章どっかで見たことあるなあ」なんて寝ぼけたことを考えていたが、今から思えばあの教師はB’zマニアだったのだろう。


3. 未成年 3 / 5 点

夜の世界からあれもダメこれもダメと追い出される、未成年のやり場のない怒りを歌う。
サビのシンセサイザーが印象的。


4. 闇の雨 3 / 5 点

曲名とは裏腹に、優しく降り注ぐ雨を思い起こさせる曲。
歌詞をよく観察してみたら、もしかすると女性目線の曲かもしれないと今気づいた。
雨雲の中はやる気持ちを抑え、待ち人の元へと駆けて行く主人公がけなげ。


5. MY SAD LOVE 3 / 5 点

昔の恋人を引きずったままでいる女性に振り回される男心を歌う。
ポップなメロディに切ない歌詞を平然と載せるのが稲葉節。
あ、そういえばホワイトスネイクの「Give Me All Your Love」のパクリ。


6. Queen of Madrid 5 / 5 点

スペインの酒場の店主が語りかけてくるかのような曲。メロディは全然違うけど、Incendioじみた雰囲気。
旅情感満載でベリーベリーグッド。

とおりすぎてゆくだけの人たち あんたらいつも それでもいい羽を伸ばしておくれよ

ロマサガのテーマソングにもばっちし似合いそうだが、山崎まさよしの「メヌエット」にはさすがに負けるか。


7. ヒミツなふたり 1 / 5 点

おちゃらけすけべソング。かったるい。


8. Strings of My Soul 4 / 5 点

長めのインスト。松本のギタープレイを拝める。
後に松本のソロアルバムに再録された。松本のアルバムはいくつか持ってるけど、音楽方面の知識がからっきしなので文章を盛れないし、レビューはしない予定。


9. 赤い河 4 / 5 点

壮大で長めのイントロからスタート。アメリカの大自然が眼前に立ち現われるかのよう。
バックの演奏も歌詞の情景も、とにかく美しい。こういう曲ほど、言葉を重ねようとするとすればするほど、陳腐なイメージを読み手に植え付けてしまう。それだけ自分の文章力のなさが不甲斐ない。


10. WILD ROAD 4 / 5 点

定期的に出てくるドライヴソング。
「奪いあい死んでゆく 言葉のせいで憎み合い 私は生きている 誰のものでもない」という歌詞が好きだが、この部分だけ高嶋りんという人が歌っている。B’zで唯一、メインパートを稲葉以外が歌うという曲。こういう方式はメリハリが出るので、たまにでいいからもっとやって欲しい。


DISC2

1. Don’t Leave Me 4 / 5 点

ダメ人間がひたすら許しを請う曲。こう表現するとなんだかアホっぽい。「君」だけしか許してくれないそうだが、その「君」も今はそばにいない。

似たよなこと 何度繰り返して いったいどこに辿り着けるの

この曲がライブで歌われると、ラストのシャウトが化け物レベルになる。


2. Sweet Lil’ Devil 5 / 5 点

社会風刺とエロを絡めたハードな一品。ただ、こういう分野はさすがに桑田佳祐には及ばないか。
Aメロの歌詞が特にお気に入り。

愛の名のもとにみだらな売買が執り行われ 盛り上がりに欠けるタダシイ人たちの不毛な論争仰山 だのになのにおまえときたら世間に見向きもしないで 情熱の塊りを俺にぶつけてくる困った昨今

革新だなんだと欲なさげな花火打ち上げながらも うまい言葉で俺を攻撃してくる硬派なやつらより 素っ裸でいきなり抱きついてこようとしてる おまえの目付きの方がぜんぜん今は怖い

近年のネット上での、人格否定まで行うウンザリするような論争(というかもはや宗教戦争。あんたらはどんだけエラいのかと)とか見てたら、この歌詞は気分爽快。


3. THE BORDER 4 / 5 点

先行き不安定な恋人の仲を再燃させようと奮闘する男の歌。
歌詞に(というか曲名にも)「国境」を盛り込んでいる意味が読み取れない。男女の仲を国境となぞらえたのか。なんか違う気がするけど、よくわかんない。


4. JAP THE RIPPER 3 / 5 点

これまた直接的エロソング。しかも今作一番のハードっぷり。
「ダしゃあいい タマがうずくなら」とか比喩する気すら皆無で、ワイルドな稲葉が拝める。


5. SLAVE TO THE NIGHT 4 / 5 点

1stアルバム収録『ハートも濡れるナンバー』の全英詞アレンジ。ジャジーな雰囲気バリバリで、あの駄曲がここまでの進化を遂げるのかと、ただただ驚嘆。


6. 春 4 / 5 点

叙情的な昭和歌謡っぽいバラード。松本はこういうの得意ね。
切なさMAXだけど、「もっと早く出会っていれば なにもかもがうまくいったのか」と歌うあたり、不倫曲だな。こういう歌詞が登場したら、稲葉の場合はたいてい不倫かましている。


7. 破れぬ夢をひきずって 5 / 5 点

美しいシンセサイザーが印象的な曲。が、歌詞はエグい。稲葉の鬱人間性が垣間見れる。

夢見て失望して 何かを悟ったつもりになってる 吠えられない守りきれない負け犬だ

積み重ねられた日々はきっとなんでもない じりじり熱をあげる心 体じゅうがいたいよ

なんて耳が痛くなる歌詞。ピンク・フロイドの「TIME」もそうだけど、こういうのをダメ人間が聴いたら卒倒してしまう。


8. LADY NAVIGATION 3 / 5 点

あのシングル曲の全英詞アレンジ。それだけでなく、スローテンポでやたらジャジー。今作一の渋さ。
ここまで魔改造されても、しっかり良い曲なのが笑えてくる。


9. もうかりまっか 3 / 5 点

明確におふざけ曲。
歌詞にサポートメンバーの名前が出てくるが、(仮名)と表記。
ラストのシャウトが今作で一番レベル高いのはどういうこっちゃ。
ただ、曲順はしくってる。もっと前のほうに持ってくるべきだった。


10. farewell song 2 / 5 点

ビートルズの「Hey Jude」のパクリ。
ラストにふさわしいが、それだけに意外性が皆無なのがなんとも。


総評 : 4 / 5 点

ここまで曲を詰め込んでおきながら捨て曲がほとんどないのは、さすがの一言。