勝手にレビュー12 : B'zの8thアルバム『LOOSE』

今作は前作のジャジーな面影を残しつつ、『IN THE LIFE』ぶりの売れ線ポップで派手なメロディへと回帰したアルバムです。その反動もあってか、売上はB’z史上一位のトリプルミリオン。J-POPの黄金期とともに乗りに乗りまくっていた時代の作品です。

B’z『LOOSE』1995年11月22日


1. spirit loose 3/5 点

松本のギターと稲葉のシャウトが約1分間うねるだけ。小曲だけど、かっこいいのでこの 点数。


2. ザ・ルーズ 4/5 点

チャラいブラスロックにチャラいダメ学生のぼやきを添えている。
就職活動期に未だに家庭教師をこなしているらしい。てかこれ、ほとんど稲葉個人の回想録やろ。「あたまがいたい何も決まらない 誰かが僕をせかすよ でなんで今すぐ決めないといけないの まだちょっとルーズにやらせて」はほとんどの大卒人間なら共感するだろう。

ちなみにBメロの裏のセリフ↓

さあどっからやろうかなぁん ちょっとそのページ開いてくれそそそそそ オ〜ケッ 305そっから頼むよ〜お父さんとお母さん期待してっからね シッカリやってくれ

さぁテストはどうだった?おっ い〜じゃん い〜じゃん い〜じゃん い〜じゃん 予想以上じゃん オ〜ケッ!もう今日はもう勉強やめよ!それじゃ君の将来の目標というものを教えてくれっ!


3. ねがい(‘BUZZ!!’ STYLE) 1/5 点

シングル曲に、ライブで演奏されるのに近いアレンジを施した。
ただ、このアレンジは原曲にあったテンポの良さを見事に殺してしまっている。
結果として、今作唯一の捨て曲になってしまっているのが非常に残念。


4. 夢見が丘 4/5 点

4曲目にして早くも王道バラード枠。
ストリングスと松本のギターと稲葉の高音が絡み合う、王道中の王道。
稲葉の情景描写もいつも通りの平常運転。

先生、あなたの言葉が思い出せない 優しい瞳に何を学んだのだろう わからない

この歌詞が、胸に突き刺さる。


5. BAD COMMUNICATION(000-18) 4/5 点

バッコミ3曲目。
ブルージーな魔改造をされているが、非常にかっこいい。3番の歌詞をカットし、録音時間を縮めているので、テンポも良い。


6. 消えない虹 4/5 点

こじんまりとしたバラード。ピアノが曲の主役。
ギターの出張りは必要最小限に抑えられ、稲葉の抑揚を効かせた高音が美しく奏でられる。
人によっては地味で退屈かもしれない。評価が二分するであろう曲。


7. Love me, I love you(with G Bass) 5/5 点

楽器が楽しげに跳ね回る、ポップ中のポップ曲。
歌詞はとにかくポジティビンビン・ポジティブ。サビでの韻の踏み具合もキレッキレ。

やりたくないことばかりが次々と見つかるけれど 消去法でイケることもあるらしい

けなしてないで たまにゃ海も山も人も褒めろよ

大学時代に出会った教授は、稲葉の根底にある思想をラディカル・ヒューマニズムと評していた。稲葉が教育学部出身であることと関係しているそうな。


8. LOVE PHANTOM 4/5 点

オペラ調。ギターもシャウトもピアノもストリングスも打ち込みも、とにかくあらゆるものをブチ込み、なにもかもが大げさな仕上がり。
B’z歴の浅いファンほどハートにドッキュンこする曲。僕もそうでした。
B’zにどっぷり浸かってしまったマニアほど、聴きすぎて『ultra soul』なみのネタ曲と感じているかもしれない。
この曲を前後してアルバムの雰囲気がガラリと変わる。ていうかこの曲、アルバムの中だと浮きすぎ。


9. 敵がいなけりゃ 4/5 点

ブラスロックのマスコミ批判。軍歌じみたSEを織り交ぜ、シリアルキラーな兵士をなんでも叩きたがりのジャーナリストに見立てる。
と、僕のような凡百の頭脳の人種ならここまでのレビューで終わるが、もっと頭の良い人間はこの歌詞からさらなる抽象化をし、「それほど怖くないものを敵に見立てる行為を皮肉った曲」だとする。
より高次の抽象化をすることによって、そこからさらに多くの具体例を取り出せるようになる。
この歌の例で言えば、マスコミだけでなくアフィリエイト・ブログ批判にも繋がっていると気付けるようになる。書き手はとにかくセンセーショナルな記事を書き、読者を集める。一定数の読者は記事の構成に対して批判したりコケ落としたりするが、書き手の目的は議論に勝利することではなく、読者を集めることなので、正義感をふるった反応も書き手に利用されているにすぎない。とにかく議論を盛ることによって人が集まるのだから。
もちろん、当時の稲葉はアフィブログ批判など意図していなかっただろう(できるはずもない)。しかし、稲葉の歌詞がマスコミのことを念頭に置きつつも抽象的な表現をしているおかげで、聴き手はここまでの文学的妄想を繰り広げることができるのだ。
それにしても、良いか悪いかはともかく、インターネットは社会を劇的に変容させてしまったのだなとレビューを書いていて思った。今回の例で言えばアレか、「一億総マスコミ化」か。宣伝サイトなら「一億総広告代理店化」か。動画投稿サイトによってここ数年は「一億総芸能人化」か。話が星新一じみてきた。ブログなんか書いてる僕も他人事ではないしな。


10. 砂の花びら 5/5 点

ミディアム・バラード。
夕方のアメリカ西部の情景がイメージされる、なんて書き方は意味不明か。
脆く儚い恋を、砂でできた花びらにたとえている。
今までのB’zにはなかった新たな形の曲で、初めて聴いたときはそりゃもうテンションあげあげ↑↑。


11. キレイな愛じゃなくても 3/5 点

バラード。なんかバラード多いな。
なりふり構わず「君」との愛を追い求める歌。

誰の言葉もくだらないしいらない


12. BIG 3/5 点

アコギを弾いてる路上シンガーのような雰囲気。
3rdアルバム『BREAK THROUGH』のビッグになってやるぜ!的な流れを汲む曲だが、あの時のきらびやかさは何処へやら、なんともくたびれた歌になっていて面白い。
B’zの引き出しは無限大だから、聴くのをやめられない。


13. drive to MY WORLD 5/5 点

10曲目と同じく、今までにない曲。ドライヴ・ソング。
前作のラストとは違い、斬新な切り口からこのアルバムのラストにふさわしい曲になっている。
「止まらないでどうぞこのまま 新しい言葉が生まれるMY WORLD 現実を馬鹿にするんじゃない 真実に触っていたいだけ」
この部分の歌詞は、ネットやフィクションに没頭しがちな人間にグサッとくる。


4. spirit loose II 1/5 点

シークレット・トラック扱いの曲。今作のエンディングを奏でる。
ギターのみなので、とくに評価はなし。


総評 : 4/5 点

ジャジー+ロック+ポップという、また新たな地平を開拓した作品。
次作は『FRIENDS』の続編です。