勝手にレビュー27 : 松本孝弘の6thアルバム『THE HIT PARADE』
昭和時代のヒット曲のカバー集アルバムです。
松本は全曲アレンジ&ギター演奏。ボーカルにはビーイング系列のアーティストを引っ張ってきています。
全体として、打ち込み+ハードロック調の、ややダークなアレンジをかましています。
松本孝弘『THE HIT PARADE』2003年11月26日
1. 勝手にしやがれ 4 / 5 点
原曲 : 沢田研二
切込隊長は、我らが稲葉浩志。
ハードボイルドな失恋歌。稲葉の声がハマりすぎな一品。鶏声が全面的にプラスに作用している。
豪華なバックサウンドは、90年代のB’zを彷彿とさせる。
別にふざけて困らせたわけじゃない 愛というのに照れてただけだよ
2. 異邦人 4 / 5 点
原曲 : 久保田早紀
ボーカル : ZARDの坂井泉水。この人、ここ10年でずいぶん「死人まつり上げ商売」の餌食になってるなあ。SF作家の伊藤計劃のように。
異国の地で愛を求めてさまよう女を描く。シチュエーションは結構違うけど、森鴎外の『舞姫』を連想させる。
坂井の繊細かつパワフルな声がバッチグー。妖艶。
その姿はきのうまでの何も知らない私 あなたにこの指が届くと信じていた
3. 涙の太陽 2 / 5 点
原曲 : 安西マリア
ボーカル : 愛内里菜
まさに昭和の夏歌。愛内の声があまり好きではない。
みんなみんな嘘なのね 涙の太陽
4. その気にさせないで 3 / 5 点
原曲 : キャンディーズ
ボーカル : 三枝有夏、北原愛子、高岡亜衣
まさにアイドルって感じの曲。
(他のボーカルと比べて)舌ったらずな歌唱が、なんか可愛くてキュンとくる。
寄り添った影法師 離れそうで離れない 溜め息の花びらが足元に落ちる
5. イミテイション・ゴールド 3 / 5 点
原曲 : 山口百恵
ボーカル : 倉木麻衣
ダークでセクシーな歌。倉木の声が艶やかで良い感じ。
ただ、倉木にロックサウンドはあまり合ってない。
ごめんね 去年の人とまた比べている
6. 港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ 2 / 5 点
原曲 : ダウン・タウン・ブギウギ・バンド。一応言っとくと、芸人のダウンタウンとは無関係。
ボーカル(というか語り手) : 我らが松本孝弘。
今作に関わった歌手達がコーラスとして参加している、お祭り要素の強い曲。
ていうか、そんな曲をなぜこんな中途半端な位置に持ってくる?どう考えても最後のほうだろう。打ち上げ的な雰囲気も出るんだし。
ネタ曲。ギターリフだけは知ってた。『ナイナイ』の氣志團とかが出てくるコーナーで流れてたんだっけか?忘れた。
……アンタ あの娘に惚れてるね!
7. 雨の街を 4 / 5 点
原曲 : 荒井由実
ボーカル : 松田明子
まったり静かなバラード。
風景描写が天才的。
夜明けの雨はミルク色 静かな街にささやきながら降りてくる妖精たちよ
夜明けの空はブドウ色 街のあかりをひとつひとつ消していく魔法つかいよ
ここまでロマンチックで童話的な表現は、汚れたオトナには思いつかない。
松田のしっとりとした歌声も、この曲に合っている。ていうかこの人、「rumania montevideo」(コナンのEDにタイアップしてた)の元メンバーなのか。へえー。
あなたの家まですぐにおはようを言いにゆこう どこまでも遠いところへ歩いてゆけそうよ
8. Paper Doll 5 / 5 点
原曲 : 山下達郎
ボーカル : Fayray。女性。
アンニュイな雰囲気の曲。歌詞に出てくる男女が共依存的で、危うい空気を孕んでいる。今でいう「ヤンデレ」。しかも男女の両方が。
そんな歌詞なのに、軽やかでジャズっぽいサウンドと歌唱というアンマッチ具合がゾクゾクくる。
もし僕を本当にひとり占めしていたいなら 手のひらを握りしめ僕をつぶせばいいんだよ
9. 「いちご白書」をもう一度 3 / 5 点
原曲 : バンバン
ボーカル : 菅崎茜
暗く切ないバラード。
昭和の大学生が主人公。「学生集会へも時々出かけた」なんて歌詞があるあたり、学生運動が盛んだった時期のようですな。
菅崎って人、2003年当時で14歳だそうで。この大人っぽい声で?嘘でしょ……。こんな人でも、鳴かず飛ばずで歌手活動フェードアウトだなんて。
二人だけのメモリー どこかでもう一度
10. Foggy Night 3 / 5 点
原曲 : 尾崎亜美
ボーカル : 滴草由美
アップテンポかつオサレな曲。今の時代の人間に伝えるとしたら、ゲーム『ペルソナ』のBGMに近い感じ。
初期のB’zのような雰囲気も出ていて、なかなか良い。ボーカルの声もパワフル。
雨に変わらないで 霧のままでふたり揺られたいの
11. 少女A 2 / 5 点
原曲 : 中森明菜
ボーカル : 上原あずみ
原曲聴いたことあるけど、あちらのペラペラなメロディをハードにアレンジしていて良い。ただし、声は圧倒的に原曲のほうが上。
「女の子のこと知らなすぎるのあなた……」って歌詞、えらい辛辣でワロタ。いや、ワロエナイ。
私は私よ関係ないわ 特別じゃないどこにもいるわ
12. ビュン・ビュン 1 / 5 点
原曲 : 外道
ボーカル : 川島だりあ
昭和のチンピラ曲。ひねりのない歌詞で、とくに響くものもなし。
13. パープルタウン 3 / 5 点
原曲 : 八神純子
ボーカル : 竹井詩緒里
アップテンポ・ソング。
爽やかな朝を、メロディでも声でも歌詞でも表現する。
キャッチーなサビは、一度聴いたらなかなか忘れられない。当時の若者は、これを聴いてビンビンになっていたのだろうか。
New York 紫にけむる夜明け
14. 時に愛は 4 / 5 点
原曲 : オフコース
ボーカル : 宇徳敬子
重いバラード。
宇徳が歌う曲って、基本的に捨て曲ないっすよね。その透き通った声は、鼓膜を愛撫してきてとてもよろしい(きもい)。
哀愁漂う松本のギターも大変良い。松本と宇徳のコンビって最強では?
歌詞は、まあよくある純愛。でも、正直そんな細かいことどうでもいいぐらいに「音」が素敵。
走り来る日々たちよ 僕らは知っている 新しいいくつもの嵐の訪れを
15. SPINNING TOE-HOLD 3 / 5 点
原曲 : クリエイション
ボーカル : なし。インスト曲。
単純にかっこいい。ただ、重い2曲に挟まれているこの曲順はどうなんだ。
16. 一人 〜I Stand Alone〜 4 / 5 点
原曲 : ディープ・平尾、井上尭之
ボーカル : Jeffrey Qwest。歌だけ聴いた感じだと、日本語うまい。
ハードボイルド。つけ抜けた渋さ。
歌詞は「孤独」をダイレクトに表現。文量はかなり短く、非常にシンプル。それだけに、曲の良さが濃縮されている。
夢のような過去は消えてゆく 一人だけでただ歩く もう誰もいない
17. 私は風 5 / 5 点
原曲 : カルメン・マキ&OZ
ボーカル : 元GARNET CROWの中村由利
激しいイントロからの静かな歌い出し。そして再び激しさが増し、中村のハスキーでとてつもない声量が場を支配する。
風を模した強弱の不安定なサウンドは、いつ聴いても鳥肌が立つ。
歌詞に出てくる人物の心理状態も不安定。刹那的に行動し、何処かで自分を見失っていく様を描き出す。
目をとじて心もとじて開いた本もとじてしまえ 私は風私は風 終わりのない旅を続けるの
総評 : 3 / 5 点
B’zマニア向けというよりは、Beingマニア向けな作品です。しかし、昭和歌謡の勉強にもなるしマイナーな歌手のことも知れるしで、持っておいて損はしないでしょう。
(追記)このラインナップで小松未歩がいないのはどういうことなのか。大変遺憾である。