勝手にレビュー22 : B'zの11thアルバム『ELEVEN』

小学生の頃は算数が得意だったのに、中学生の数学になって急に苦手になった人は、僕以外にもそう少なくないでしょう。

これにはモノゴトの抽象化・分解・再構築という能力の欠如が関わっている、というのが僕の勝手な分析でして、「数学できるやつは論理力があるから、国語や社会とかも余裕でこなせちゃうんでしょ?」とか思ってます。そういう科目の苦手な理系人間の事情をまったく考慮していない、文系野郎の完全なヒガミですね。ていうか、よくこの程度の知性で大学行けたな。

今作は前回からもーっと突き進んだハードロック要素の曲と、従来からの和ロック要素の曲が並立しているカオスなアルバムです。ただ、あくまで「並立」であって、「調和」や「共存」していない 点が問題だったりします。

B’z『ELEVEN』2000年12月6日


1. I 1 / 5 点

導入役のイントロ曲。すぐ終わる。


2. Seventh Heaven 3 / 5 点

ブラス+ハードロック。
B’zお得意の、陽気な応援歌。韻の踏み具合のセンスもいつも通り。
自分の欠 点ばかりに気をとられる人間のケツをしばく歌詞も、定番中の定番。
後述するが、6曲目と違って韻の踏み具合が実に自然で心地よい。

身分の区分忘れ 光浴びなさい サダメを変えてくのは オマエの気分


3. 信じるくらいいいだろう 3 / 5 点

ハードロック。
前曲とは打って変わって、暴力的で陰惨な雰囲気。
いつまでたっても進歩せず、結局信頼するパートナーに見捨てられた哀れな人間を描く。
ウダウダと「信じるくらいいいだろう」と繰り返す姿は、『Don’t leave me』の主人公を連想させる。

何一つとして結局続かなかった 変わりたいっていうだけで何もやらなかった


4. RING 4 / 5 点

和ロック・バラード。
荘厳で幻想的な歌詞。主人公の元から去っていった(もしかしたら死別した)恋人への想いを叫ぶ。
短いながらも聴き手を圧倒させるラストサビは、稲葉の声量も相まって会心の出来。

どんなに思っても何度くりかえしても この思い擦りきれはしない わかるんだ


5. 愛のprisoner 4 / 5 点

ゴリゴリのハードロック。
歌詞はSM、あるいはDVについて。「あなた」の支配から逃れようともがくが、それでも暴力的な愛に囚われてしまう「僕」。
「痛い目にあうと知ってて追いかける ほんのちょっとの愛 そんなんとひきかえに」と言っているあたり依存性がしっかりと根付いており、もう間も無く調教完了といったところか。
今回は少ないが、歌詞を詰め込んでいる箇所がすごくいい。まくし立てるような歌詞のある曲が、僕は好きなのかもしれない。

もしかしたらじゃなくて僕なんていてもいなくてもいいんでしょう そうじゃなけりゃ僕のうめいてる声を気に入ってるだけなんでしょう


6. 煌めく人 1 / 5 点

Rage Against the Machineみたいなロック+ラップ。
稲葉にも絶望的に才能のない分野があることがわかった。ラップである。
韻を踏むためだけに無理やり書いたかのような歌詞が、稲葉の言語センスを悪い方向に滑らせている。3rdアルバム収録の『HEY BROTHER』の頃からまったく成長していない。
これはもう、B’zにラップを求めてはいけないということなのだろう。人にはそれぞれ、「天才的にできる分野」と「絶望的にできない分野」があり、後者はさっさと諦め、前者こそを伸ばす道を選ぶべきである。B’z本人達もそれを承知したのか、これ以降ラップ曲は作っていない。


7. May 4 / 5 点

陰鬱な曲。
最初聴いたときは地味な印象しかなく、正直嫌いな曲だったが、高校生の頃に歌詞を読み込んで考えが変わった。
元恋人への未練タラタラな想いを抱いて、幽霊のように街をさまよう主人公がいたたまれない。
「君」に出会えたとしても、たぶん悪霊を見るかのような目でキモがられるというのを容易に想像できるのがもっと悲しい。

笑ってくれれば僕の世界は救われる


8. juice (PM mix) 2 / 5 点

暑苦しくてムサいハードロック。
歌詞はセックスをど直球で表現する。ただ、6年後の『SPLASH!』やその他諸々のエロソングと比べて、あんまりセクシーさを感じないので低評価。

何を考えてるのか互いにつかみきれない ハートがどっかとんでる 秘密だらけでin&out


9. Raging River 5 / 5 点

王道バラード枠。ロック+ストリングス。
中国大陸の雰囲気が漂う壮大なメロディ。時に静かで、時に荒れ狂う河の流れを、サウンドで見事に表現。収録時間が7分を超える大作で、これは『WICKED BEAT』のバッコミ以来の記録。
困難な状況にもがき苦しみつつ、それに立ち向かう人間の姿を描く。「この世を嘆くなら老いてゆくだけだろう」などの歌詞から、稲葉の無常観が滲み出す。
昔、ニコニコにこの曲を使用した『MGS3』のMADがあった。B’zとメタルギアというアンマッチ感の激しい組み合わせだが、意外と似合っていてかっこいい動画だった。今はもう削除されていて観れないのが非常に残念。

帰らぬ者たちに手を振って 自分の為にもう一度


10. TOKYO DEVIL 2 / 5 点

ダークなハードロック。
オタク的には『真・女神転生』を連想させる曲名だが、もちろん関係なし。
メロディも歌詞も魅惑的なものではなく、「うーん」という感じ。最後の「グワワアアーーン」というドラが意味不明。


11. コブシヲニギレ 4 / 5 点

ハードロック。
AメロBメロで不穏な空気を漂わせつつ、サビで暴力的なサウンドが一気に爆発する。
歌詞はコミカルかつ憎悪に満ち溢れている。主人公を社会的にハメ殺そうとする人間に向かって、呪いの言葉をぶつけている。

傷ひとつ無いままに生きるの そうやって笑ってなよ


12. Thinking of you 3 / 5 点

ハードロックのミディアム・バラード。
気だるげな雰囲気とハードロックの力強さがなぜか調和している、不思議な怪作。
欠点は、ややサウンドがやかましいこと。まあハードロックだから仕方ないか。

狂ったふりをしても正気をたもて


13. 扉 5 / 5 点

収録時間が2分台と短いハードロック。
終始、不穏で不気味な空気がつきまとうメロディ。
歌詞の主人公は、どうやら密閉された空間に閉じ込められ、そこから脱出するために扉を叩き続けているようだ。
言い知れない絶望感に包み込まれたラストで、結局主人公は脱することができたのかは定かではない。
情報がほどよく制限された歌詞なので、様々な考察(妄想)が捗る曲。主人公は囚人なのか、ニートなのか、奴隷なのか、はたまたゾンビなのか。

きっと待っているのは新しいドア もう流れを断ち切れ


14. 今夜月の見える丘に (Alternative Guitar Solo ver.) 3 / 5 点

ミディアム・バラード。
しみじみとしたメロディとややエロチックな歌詞が溶け合って、夜の世界が形成される。
このアルバムには珍しいほどにストレートなラブソングなので、かなり浮いてる。
シングル版との違いは、副題通りギターソロが違うだけ。

傷ついてやっとわかる それでもいい遅くはない


総評 : 3 / 5 点

今作は以前までとはまた違った、暴力的な陰惨さの際立つアルバムです。新たなジャンルに挑戦する姿勢は率直に見習いたいものです。
しかし、それでも総評が3 点止まりな理由は以下の2つです。

  1. 90年代の作品と比べて、玉石混交の激しいアルバムであること。個人的に6,8,10曲目はオミットしていい。
  2. 曲ごとのジャンルがバラバラで、アルバムとしての芯が通っていない。それまでも統一感のない作品(『SURVIVE』など)はあったが、今作はハードロックと和ロックという2種類「だけ」なのが問題で、その2種のサウンド間の距離幅が非常に大きく、聴き手には違和感が残りやすい。

中にはすごい曲もあるので、少しおしいアルバムです。されど3 点なので、そう悪い作品というわけでもないです