勝手にレビュー38:B'zの18thアルバム『C'mon』

好きなシーシャはブルーベリー味。

B’z『C’mon』 2011年7月27日


1. C’mon 4 / 5 点

(インスト除いて)1曲目がアップテンポナンバーじゃないのって、1996年の『FRIENDSⅡ』以来じゃないだろうか。
消耗した人間に優しく手を伸ばす応援歌。切なさと爽やかさの混在。

ひざまずいて祈っても 消えたときが戻らないなら


2. さよなら傷だらけの日々よ 3 / 5 点

サビでのドラムの跳ねまわり具合がやたら変則的な曲。
荒涼と吹きすさぶ砂塵混じりの強風に、怯みながらも立ち向かうイメージ。ゴムタイヤとエンジンオイルの匂いが漂う。

いつの日か本当に戻るべき場所を知る


3. ひとしずくのアナタ 5 / 5 点

ひっさびさの正統派デジタル・ロック。めちゃくちゃかっこいい。
ともすれば猟奇的ともとれる、献身的な愛情でもって復縁を迫る様子を描く。
生音と打ち込み音の絶妙なバランスが、乾きと潤いの両方を表現している。『GREEN』で目指していたのってこういう曲なんじゃないか。

恋とは 互いを根こそぎ奪う戦い


4. Homebound 2 / 5 点

まったりご帰宅ソング。
もうなんべんも書いてるが、こういう曲のときは低音で歌ってくれないすかね。

もうすぐ帰るから


5. Don’t Wanna Lie 4 / 5 点

ギリギリchopのようにコナンのOPで実写PVを垂れ流しよった。よく考えなくても異常現象だ。好きだからいいけど。
優しく力強いストリングス。ひたむきな歌詞で泣けてくる。
当時、AKB48がヒットチャートを総なめしていてB’zの連続1位が危ぶまれていた中、このシングルで妙な商法をしていた。あれはめちゃくちゃださかった。順位とかもはやどうでもいいぐらいの立ち位置じゃん。たぶん松本稲葉もそう思っていただろう。

ややこしいのは 世の中じゃなくて この頭ん中


6. DAREKA 4 / 5 点

人間嫌いのボンクラナルシスト再び。メンヘラの構ってちゃんが心の内を綺羅びやかに曝け出す。
以前のおれなら語り手を同族嫌悪の眼差しで見ていたが、今なら息苦しくなるまで抱きしめたいと思う。こうした心境の変化は、たぶんおれが歳を取ったせいだろう。
老いるのは悪いことばかりでもない。自身の変化を楽しめる。

どうせこの世は寂しさの集合体


7. ボス 4 / 5 点

歌謡風。
指導者あるあるな歌詞。当時の首相の心情を皮肉ったかのような内容。
社会の構成員すべてを満足させようとし、自らのメンツも保とうとし、挙げ句にはにっちもさっちもいかずにパニクる哀れな人間を描く。
組織論的には、例えば能力の優れた層と劣った層の両端を満足させれば秩序が保たれやすいというテクニックがある。真ん中の中途半端な層に最適化すると、逆に学級崩壊だの革命だのが発生してしまう。風呂敷の真ん中をつまみあげると中身がこぼれるが、端を持ち上げれば安定することから「風呂敷の小豆理論」と呼ばれているらしい。先生から教えられた。
語り手の場合は清濁の平均値をとることで、風呂敷の罠にはまってしまったのだろう。「アイアムソーリ」って、あんた…。

もう帰りたい もう帰りたい 俺はただの人


8. Too Young 4 / 5 点

軽いノリの歌謡ジャズな曲。
メロディがまったく若さを感じさせない、曲名とは真逆の方向を突き進む。
若々しさと老いぼれ感が同居している、すさまじく意味不明な曲。

青春なんて 後で思い出すもの まっただ中にいりゃ 痛い つらい


9. ピルグリム 5 / 5 点

切ないバラード。コナンのEDになってた。
この曲名は、想い出の場所を心の中で巡礼するところから由来しているのだろうか。
ラストのギターがすごくいい。ブツ切りで曲が終了するのも儚さが増幅されて、なんか言葉にできない。

すぎ去って行ったもの それだけが運命


10. ザ・マイスター 3 / 5 点

前々作『ACTION』の面影を色濃く残す応援歌。
サビでのオノマトペが独特な韻の踏み方で耳に心地よい。 次曲と比較して若干見劣りするのが惜しい。曲順がしくっているせいで割をくっているいつものパターン。

誰とも比べさせるな 誰からも学びまくれ


11. デッドエンド 4 / 5 点

前曲に引き続いての応援歌。ただし、こちらは音・歌詞ともによりヘビィな内容。
先生からの受け売りになるが、『「普通がいい」という病』なる本に「地下水脈」の話が出てくる。個々の経験や専門性は浅いところで満足すると容易にタコツボ化してしまうが、それらを極めていけば普遍的な真実に辿り着ける、というのを「地下水脈への掘削」になぞらえた話だ(プログラマ的に表現すれば局所最適解ではなく大域的最適解まで探索しようという感じ)。
この本の著者は精神科医であり、稲葉は教育学部出身である。これが関係しているかは少しあやしいが、こうしたヒューマニズムの概念を稲葉は教育学の視座から学んでいたのかもしれず、それを意識したかのような歌詞になっている。

しょうがないね こんなこと この先何度もある


12. 命名 4 / 5 点

王道バラード枠。
それとなく示唆するフレーズは出てくるが、「赤ん坊」など具体的な単語は一切ないところが文学的。
この曲を聴くといくら感情がささくれ立っていても優しい気持ちになってしまう。
当時はいわゆるDQNネームで世間が困惑している時期だったと思う。数年後、確か自主的に改名する人とかも出てきたような気もする。

負けぬように 愛せるように 誰かを照らせるように


13. ultra soul 2011 3 / 5 点

ボーナストラック的な存在の曲。
打ち込みじゃなくて生サウンドに変わっているからか、えらく攻撃的な印象。それとともにネタ要素が薄れ、単純にカッコよくなっている。
ライブ演奏時のものに近いのに、ラスサビ直前の松本の「(■∋■)ヴェイ!!」がないのがすごく寂しい。

祝福が欲しいのなら 歓びを知り パーっと ばらまけ


総評 : 4 / 5 点

少し遅めのゼロ年代B’zの総決算。
この時期までのB’zはいろんなジャンルごった煮の作品であることが多いのだが、今作はその中でも非常にまとまりが良く、個々の曲の質も高い。