勝手にレビュー33:凋叶棕の24thアルバム『随』

凋叶棕(ティアオイエツォン):東方の同人音楽サークル。キャラクターの描写を深く掘り下げた、意味深な歌詞が多い。歌詞、メロディだけでなく、CDジャケットや歌詞カードやホームページなどにも毎回ギミックを仕込んであるのが特徴。要は、考察厨ホイホイなサークル。考察用のwikiが作られているほどだ。

今作は日常がテーマで、人里のとある一日にフォーカスを当て、時系列順に各キャラクターの物語が展開される。それゆえ、同じく人里を主題に置いている漫画作品『東方鈴奈庵』をモチーフにしたであろう描写が多い。
このサークル、普段はホラー要素やエログロ描写が頻出するのだが、今作ではそんなことはなくマイルドな作りになっている。とはいえ何事にも例外はあるから油断しないこと。
ちなみに読みはまにま

凋叶棕『随』2017年5月7日


1. かぜのねいろ 3 / 5 点

インスト。
ピアノが可愛らしい。休日の朝にもってこいな曲。


2. 辰の四つ 今日も始まる 3 / 5 点

8:00~8:29。
インスト。
和風と中華と洋風とレトロゲーム音が混じり合った、いつもの凋叶棕メロディ。


3. 巳の三つ 疵とマントと○○心 4 / 5 点

10:00~10:29。
ブラスロック。
世の真実が何なのかを理解していない大衆を見下す、赤蛮奇。
こういう性格の人物(稲葉風に言えば、冷静に俯瞰で見る賢いやつら)のなにが嘆かわしいって、自身も大衆の一人に過ぎないことを自覚できていない、ということ。
しかも見下してるはずの他人からの視線を気にしちゃってるもんだから、もう痛々しくてたまらない。
ま、気落ちすることはない。社会的動物って、そういうもんです。自己の存在を皆に証明していないと命に関わるのだから。って神林長平が言ってた。

外套の下の疵の疼きが止められない 恐怖と自尊心の狭間で ぐらぐらぐらぐらぐらぐらぐらぐら揺れている


4. 未の一つ いのせんとくらうでぃんさいど 4 / 5 点

13:00~13:29。
インスト。
間の抜けた曲名とは裏腹に、美しくもどこか不気味なメロディを奏でる。


5. 未の三つ なにいろ小径 3 / 5 点

14:00~14:29。
いわゆる萌え電波曲。nayutaの声のせいで、中毒性が非常に高い。
『鈴奈庵』の霊夢は様々な思惑に振り回される若手エリート官僚って感じがツボなんだけど、この曲で描写されている姿は、まあなんとも可愛らしい年齢相応の一人の少女である。
といっても、『鈴奈庵』でもオフのときの霊夢はけっこうだらけてたな。
そういえば、おもしろフラッシュに巫女巫女ナースとかあったなあ。この曲聴いてたら思い出した。あれの元ネタってエロゲーなんだっけか。

好み好み個のみこの身この見 焦がれてる?


6. 申の二つ 『仲良し村の八人の仲間たち』 3 / 5 点

15:30~15:59。
このあたりからきな臭い曲が多くなってくる。蓬莱人形がモチーフな時点で、嫌な予感しかしない。
ミュージカル風。アリスが人里の子供たちに対して、正直村の8人の人形劇を催している、という体の曲(?)。作中作。
「最も臆病者の僕」と「最も美しいボク」は無事に幻想郷から脱出し、二人は結ばれ、他の六人は宝石に変えられて売り飛ばされる。めでたしめでたし(?)。
同じく蓬莱人形をテーマとしている『屠』の結末とはかけ離れている。あちらでは、「最も美しいボク」に皆殺しにされた七人の怨念が最終的に彼女を追い詰め、幻想郷に閉じ込めるというものだった。
「最も美しいボク」の勝利と敗北。パラレルな物語。そしてあらためて不気味に感じる、アリスとかいうサイコパス野郎の正体。子供にこんなん聴かせるな。
めらみぽっぷの声の演じ分けに注目。

やあ、こんにちは!ボクはねえ、とっても愉快なピエロさ!


7. 酉の三つ 遺された名前 ―とおりかぞえうた― 4 / 5 点

18:00~18:29。
これも作中作。歴代御阿礼の子の凄惨な死に様を歌にした童謡。それを里の子供たちは意味も知らずに歌っている、という曲。
前曲に続けてめらみぽっぷの声の演じ分けが凄まじい。なんかやたらと共通点多いな。
曲順的に考えて、前曲の人形劇を観終えて家路についてる子供たちが歌っているんだろう。それに鉢合わせた阿求は心の内で覚悟を決める、みたいな。こういう各登場人物がすれ違う『街 運命の交差点』的な演出がよろしい。

いまだこの身のかく或る限り そうそうはいよとゆずりゃせん


8. 戌の一つ 千夜一夜 3 / 5 点

19:00~19:29。
曲名と原曲からだいたいの想像はつくが、八雲紫をシェヘラザードに見立てた歌。
幻想郷に遍く物語の観察者であり、管理者である彼女の風格を見せつけられるかのような歌詞。でも曲をよく聴いてみると、一人の妖怪としてただ単に夜の到来を無邪気にはしゃいでいるだけのようにも感じられる。なんか可愛い。

生まれ出でて 死んでいく 無限の物語を見届けながら。


9. 亥の四つ スーパースターコメットテイル 3 / 5 点

22:30~22:59。
インスト。
凋叶棕ではたいてい酷い目にあっている霧雨魔理沙だが、この曲では楽しげに星空を駆けていく姿が思い浮かぶ。
耳を凋叶棕に調教されている場合、裏があるんじゃないかと勘ぐってしまうが、特に何もなく平和に終わる曲。のはず。


10. 子の四つ グラスホッパーズ 4 / 5 点

0:30~0:59。
『鈴奈庵』の『情報の覇者は萃か散か』というエピソードがモチーフ。散々言われてるだろうけど、『1984年』ですな。
SF、というかフィクションの面白い部分の一つは、虚構の枠を借りて現実社会を分析しているとこ。
知らぬ間に情報が駆け巡る現象を、付喪神として擬人化(擬物化?)しているのがミソ。近代以前の日本人(日本人に限らないが)は、こういうふうにして得体のしれない現象を妖怪とか霊的存在の仕業として捉えていたんだなあ(KONAMI感)。
バックでときたま流れるヒソヒソ声が耳を愛撫する。たまらん。

狐につままれたのか 狸に化かされたのか 言葉だけが聞こえる そうして伝わっていく


11. 丑の三つ オールドモチーフ  5 / 5 点

2:00~2:29。
秘封倶楽部。ということはつまり、この曲だけ幻想郷ではなく外の世界の、それも近未来が舞台だから、やたらと違和感がある。
凋叶棕の秘封倶楽部曲を聴いていていつも思うんだけど、めらみぽっぷがメリー役でnayutaが蓮子役なのは、声質的に考えて明らかに配役ミス。あ、でも西洋人のほうが声低そうだからミスではないのか。まあそれは置いといて。
妖しくエロいピアノとベースから開幕する。
主題は人間の創造力と想像力について。二次創作そのものについても考察している曲な気がする。こういうメタフィクションをテーマとするのは、『屠』や『喩』でも見られるように、凋叶棕が得意とする作風の一つ。
歌詞を眺めていると、物語に対するRDの情熱が伝わってくる。大サビの歌詞は、RDからの聴き手に対する語りかけだろう。楽しい妄想の世界を共有しあおうぜ、みたいな。

そう はじまりはみな同じくおしまいはみな"特別" 皆それぞれ 癒せぬ中二病を抱えて生きていく


12. 寅の二つ それゆけ河童秘密作戦 3 / 5 点

3:30~3:59。
インスト。
曲のイメージは、ファンシーなメタルギア。


13. 卯の三つ 風神時告げ喇叭 3 / 5 点

6:00~6:29。
インスト。
えらく勇ましい感じの風神少女のアレンジ。まるで文がどこかの戦場に飛び立つかのような。考えすぎか。


14. かぜのゆくえ 4 / 5 点

物語は誰かによって紡がれ、誰かによって観察される。そして、その観察者もまた別の物語を生み出し……。
ヒトは誰かの物語を消費するだけの立場にいられはしない。生きているただそれだけで、何らかの物語に組み込まれ、別の誰かに観察されるという構造に規定されている。
誰もがみな、物語の作者であり、消費者であり、同時に登場人物でもあるという構造。ここにはもちろん、この曲を、というかこのアルバムに関わるRD本人や我々のような聴き手も否応無く参加させられている。
これは悲劇か?もちろん違う。少しでも踏み外せばパラノイア一歩手前になりうる危ういバランスの上に成り立っているけれども、だからこそ物語は面白くなる。
人と人が、物語と物語が交差しあい、新たな何かが生まれゆくリング。
この曲で描かれる小鈴は、そうしたものへの想いを巡らす好奇心旺盛な普通の少女だ。あらゆる文字を読めたり妖怪に憧れたりする異常者のくせに。

今日も始まる。―かぜよはこんで。わたしがまだ知らない何かのこと。


総評 : 4 / 5 点

箱庭感満載のアルバム。時間や語り手が刻々と変化することで、人里に対するイメージも万華鏡のように移ろう。
不穏な空気はちらほら感じ取れるものの分かりやすい残虐性はないので、そういう性癖持ちにとっては物足りないかもしれない。