勝手にレビュー20 : B'zの10thアルバム『Brotherhood』
コンピュータの世界があまりに広大で、飲み込まれそうな今日この頃。中学生の頃の自称コンピュータオタクのプライドはどこへやら。まあそんな時は、『デビルサマナー ソウルハッカーズ』やら『serial experiments lain』などのSF世界からパワーをいただきましょう。
とうとう90年代最後のアルバムをレビューします。さよなら90年代。2枚のベストアルバムで日本を席巻したのに売れ線を狙わず、『SURVIVE』からさらにゴリゴリにした趣味全開のアルバムなのが笑いどころです。
B’z『Brotherhood』1999年7月14日
1. F・E・A・R 4 / 5 点
初っ端から暑苦しいハードロック。
B’zには定番の応援歌で、あれだけ人を勇気づける歌詞を書いといてまだレパートリーがあるのかと、毎度ながら感心させられる。
しっかし、歌詞の盛り込み具合が半端ない。ほとんどラップに近い。高音を維持しつつ、この速度で舌を回すのは流石である。
ヒマだから 人の不幸で笑いたくてしょうがないんだろ? 失うことにおびえながら 少しずつ失っていくんだ
2. ギリギリchop (Version 51) 5 / 5 点
「名探偵コナン」で有名なアレが、メタル要素を強化されて収録。
稲葉の声も松本のギターも、キンキンに研ぎ澄まされている。
歌詞は、大物アーティストに上り詰めたからこそ見えてきた風景やしがらみと、それでも初心を忘れない姿勢を並立させた感じ。
コナンのOPで初めて「B’z」なるものを認識した自分にとって、非常に思い入れのある楽曲。コナン経由で好きになったアーティストはB’zだけではなく、小松未歩、ZARD、DEEN、倉木麻衣とよりどりみどり。残念ながらB’zほど聴きこんではいないけど。
最近はアニメの放送枠が深夜ばかりになり、それとともにアニソンも一般のJPOPではなく「アニメのためのアニソン」が多くなっているのは、非常に寂しい。歌ってるのが声優だったり、アニソン専門歌手だったりと、アニソンに「意外性」がないように思うのだが、どうだろうか。それとも、僕が知らないだけで、最近のアニメも普通のJPOPタイアップをしてたりするのだろうか?
別に無鉄砲なんかじゃないんだよ アタマもそこそこ使ってる
……それにしても、chopって何だよ、chopって。
3. Brotherhood 5 / 5 点
ハードロックの王道バラード枠。
歌詞は愚直なほどストレートに、仲間との絆をソウルフルに叫ぶ。
真の友情とか、真の仲間とはなんなのか。それは、いざという場面で決してこちらを裏切らない人間のことである。こちらからは決して裏切らず、逆に相手側がこちらを常に切り捨てられるようなポジションに立たせ、それでも最後までしょうもない嘘をつかない者が親友である。「だから、友達というのは無理して作るものじゃなく、残っていくものなのだ」ってことを、先生から教えられたのを思い出した。
難 点なのが、曲順。この曲はどう考えてもクライマックスに持ってくるべき。
いざという時手をさしのべられるかどうかなんだ
4. ながい愛 5 / 5 点
ストリングス+ハードロックの、暗めのバラード。
ドラマチックで退廃的で暴力的なサウンドが炸裂し、世紀末。
飽き性の恋人を非難するという歌詞なのだが、含意はそれだけではないような気がする。時代は常に変遷し、人は成長し、万物は流転する。そうした変化に一緒についていこうよと、聴き手に呼びかけているかのよう。回りくどい言い方を捨てれば、「今の俺たちは、去年までの売れ線ポップなB’zじゃねえんだぜ」と言い放っている歌。
「いつの日か 世界が消えてしまっても 瓦れきの中 輝く朝露のように」などの歌詞に代表されるように、世紀末の匂いが漂ってくる。ああ世紀末。
美しい気持ちだけを残したい そんな気持ちを僕はあなたに持ちたい
ここからは、長めの愚痴を書いていく。前半に壮大なバラードが連続で配置されているので、聴き手としてはもう鼓膜がいっぱいいっぱい。アルバムにとっての曲順がどれほど重要な要素であるかを、この作品を聴きかえすたびに考えさせられる。
大学の授業に例えれば、こうだ。「比較う◯こ学」という講義があったとする。最初の講義では「比較う◯こ学」とはなんぞやという導入部から始まり、「う◯こ学原論」や「う◯こ過程論」といった同分野における学問との違い、「比較う◯こ学」が「う◯こ学」全体においてどのような意義を持つのかを説明する。第二回目の講義以降は、「比較う◯こ学」の歴史や理論、問題 点など具体的な話を紹介していき、最後に統括として「比較う◯こ学」のこれからの研究課題を提示するのがセオリーだ。
要するに、「序論 → 本論 → 結論」という例のアレである。講義の前半のほうで、いきなり統括や結論をもってくるような「う◯こ」な教師はいない。だが、今作のB’zはそれをやらかしてしまっている。
『マグマ』の頃の稲葉はあれだけ曲順に繊細だったのに、一体どういうことなのか。『マグマ』の僕のレビューは、ただの深読みだったのだろうか。
5. 夢のような日々 3 / 5 点
まったりロック。
定期的に聴きたくなる、ノスタルジー満載の曲。
あんなこともこんなことも夢ちゃいまっせ しっかり手をにぎって欲しいよ
6. 銀の翼で飛べ 5 / 5 点
今作唯一のブラスロック。
社会批判を批判する歌。否定論者を否定するのは、非常に稲葉らしい作風。
「自分で自分をけなして 満足してハイ終しまい」
「自分なりの成果を見せなきゃ 赤ちゃんにだって認められないよ」
……グサグサくる歌詞が多すぎる、稲葉の知性が全開の曲。いろんなことを勉強して、人間や社会に絶望しそうになった時に聴くのがオススメ。
どこでも何かが起きている 知らないことを学ぶ根性あるかい
7. その手で触れてごらん 4 / 5 点
妖しい雰囲気が満ちるハードロック。
エロと虚構を混ぜ合わせたダウナーな曲。疑惑に翻弄されるのではなく真実を直視せよ、という歌詞。
優しくさわって じっくりさわって その手でさわって もうすぐ何かが見えるだろ
8. 流れゆく日々 4 / 5 点
退廃的でダークなハードロック。
曲の半分がギターソロという、B’zにしては尖った構成。だが、このメロディがやはり格好いい。
稲葉の歌い方はやや演歌的。まあB’zは演歌ロックってよく言われるけど。
何もない退屈な日々へと 姿を変えてゆく
9. SKIN 2 / 5 点
ロック+ストリングスのバラード。
メロディが4曲目とかぶる、っていうかぶっちゃけ劣化版。歌詞もあまり響かず、なんだか存在感の薄い曲。
取り去ってしまおう 息を重ねあって 二人を分かつ境界線を
10. イカせておくれ! 3 / 5 点
中速テンポのハードロック。
野望はあるが、センスがなくウダツのあがらない男が主人公。稲葉みたいな超人ではなく一般人に近い感性が、いつもの稲葉節で描かれている。
苦労話を自慢げにしゃべらないで そんなヒマがありゃ何かバイトでも始めよう
11. SHINE 4 / 5 点
和風+スパニッシュ+ハードロック。
間奏のギターとベースの掛け合いが非常によろしい。
歌詞の「僕ら」の関係は、恋人同士ともライバル同士とも受け取れる。もしかしたらB’zの二人のことかもしれない。
意外な曲がラストだが、これはこれで良い。『SHINE』の位置はこのままで『Brotherhood』が10曲目とかだったら、どれほど作品としての質が向上したか。
最後の最後は一人ぼっち 胸の中にだけおまえがいる どこにいようがかまいやしない 悔いなく輝けよ
総評 : 4 / 5 点
個々の曲のレベルは軒並み高いのですが、曲順が大幅にしくじっているので満 点には達していません。B’z史上、最も曲順が頭沸いてる作品ではないでしょうか。
あと欲を言えば、ここまでハードに振り切ったのだから、より陰惨な曲(「女神転生」のBGMくらいメタルでダークなやつ)が1曲あってもよかったでしょうに。
まあ愚痴愚痴書きましたが、良いアルバムです。