獲り合い悟り愛
それは去年の冬の出来事でした。
私が某県のとある公園で一人寂しく菓子パンを食していた時のことです。
一羽の鳩が羨ましそうな眼をこちらに向けながら、トク、トク、と歩み寄ってくるのです。
普段の私であれば、自分のことに精一杯で、他者に気遣う余裕を持ち合わせてなどいないのですが、この時ばかりは少しセンチな気分に浸っていたというのもあったため、この鳩との種族の壁を超越した愛、信頼、病目眩重い想いを相対し分かち合いたいと思い、一欠片のパンくずを、ヒュオーン、と放ったのです。
鳩はそのパンくず目がけて歩みを速めました。そして、その小さなくちばしの角度をパンくずのほうへ下げ始めました。
瞬間、周囲の木々から大勢の鳩がパンくずのほうへと一斉に舞い降りてきたのです。
大量のくちばしが、パンくずのほうへ、同族のほうへと打ち下ろされました。
パンくずは粉微塵に成り果て、鳩たちによる威嚇の声、負傷の悲鳴、勝利の雄叫びが、あたりをクァクァと轟かせました。
しばらくして、パンくずの残り香すら地面から消し飛んだ後、鳩たちは何事もなかったかのようにサァァーっと各々の方角へと飛び立ちました。ただ一羽を残して。
生傷の目立つその一羽は、私の手に残された拳ほどの大きさの菓子パンに眼を向けていました。
私はそのパンを自分の口に放り込み、じっくり咀嚼して喉に流し込みました。
その間、私と鳩はずっとずっと見つめあっているのでした。
それは去年の冬の出来事でした。